<人に学び、自然に学ぶ> 柴山信夫 デオスコリヤジャポニカ、日本の山野にのみ自生する自然薯の学名で、芭蕉、広重さんの名作にも遺され、丸子は今でも「とろろ汁」で象徴されている。最近、山芋掘りは山崩れの原因になると、世間からひんしゅく・顰蹙を買うようになり、名物の行く末を案じた。 二十余年前、初老の紳士が訪れ、「不可能とされた自然薯の栽培に成功した」とテキストを添えて帰られた、私にとって救いの神様との出会いで、早速山口県の政田農園を訪ねて講師をお願いする。 農業の曲がり角と言われた時だけに、県下二十ヶ所の農協から依頼され、講習会が始まる。一巡りするのに十日間を要し、年二回の講習会は三年続いた。 自生する植物の栽培は簡単に思えたが生態不明、土壌適否、病虫対策など戸惑いも多く、期待をよそに三年目には受講者も激減し、寂しさを覚えた、こうした中でも結果を検討し合うグループもあり、人間も条件の一つに思えた。 私も八年の栽培で、線虫禍の土壌消毒、改良剤、同一品種の劣悪化など、予期せぬ現象を造作障害と決めつけ、生産費の増加で、畑土の入れ替えと計画する。 苦悩する或る日、「私に畑を任せてみて下さいませんか」と畑での出会いの人は、土を造る河野茂夫社長さん、実情を話しているうちに、救われる想いで、百坪の畑で継続することにきめる。 この出会いが限りなき「望み」を大勢の人と味わうことになろうとは、その頃、社長から紹介された「土博士」が京大の松尾嘉郎先生で、「私の十年の研究結果を目の前で立證してくれた不思議な人」と二人のコンビは既に続いていた、第三の出会い人だ。 畑では植付時期であり、「ゼオライト、ソイル」と聞き馴れない資材が運ばれ、土壌検査、対病性まで記録する試験場となり、私は助手の気分で励んだ。 海の中で生れ進化した命の上陸により、土が生れて四億年、すべての命を支えてきた土が、人間により酷使されてきたと博士らはいう、特に戦後化学肥料を主体に耕されて来た私の畑に、反当五瓱の割で「ミラクルソイル」を施す。 自然の摂理を弁え、一握りの土に数十億の微生物の命とバランスを重視した「土」は作物の生命力を最大限発揮し、病虫害にも防衛機能が生れるという。 素人でも分かる柔らかい土は、五年目にして一瓩の大物をつくり出すまでに土は甦ったのである。 「ミラクルソイル」とは、県下の湿地帯に無尽蔵に眼る「葦」など水辺の植物の枯死体が何千年の間、土の中に貯えられた末分解物と、緑色植物(落葉、茶殻)地上にはないミネラルを含む海藻類を発酵させ、多種類のバクテリアが共存する安定した土壌生態系をもった土をいう。 自然薯と同じように、一般野菜にも挑戦する、初年度で効果は著われる。胡瓜は一本の苗から当時は八十個が限度かと思ったが、今年は実に二百三十五個の収穫に目を見張った。 「日持ちの良さは味の良さ」の定説がある。 日持試験を三年間のデータでみると、同じ熟度と思われるものを市販ものと比べた。 最短は一週間で、而もどろどろに腐るのに対し、自家産は一〜二ヶ月も長持ちした。農薬に替わる植物保健剤は乳酸菌が主成分だから無害、これぞ生態系農法(有機)「人の命を支える土」の名題をかみしめる。 静岡県自然薯研究会が誕生して十四年、年に一度の品評会には、県知事賞を授かる華やいだ雰囲気を百七十名の生産者で味わっている。 統一された品質を極めるには人と技術の連帯性が求められる。尚、定期講習会に夫婦同伴の受講の奨めで、女性の几帳面さは、旦那を上まわり夫婦合作作業の効果は大きい。 県立農業試験場で、バイオ育種のウイルスフリー60号を育て、十余年、研究会の奨励種として、会員のネットハウスで念入りに保存されている。 新たな自然薯の性質の発見は器材の改良に進み、社長はパイプ式から、究極に近い「ミラクルソイル」セット栽培の高品質、量産の「防虫防薬中間マルチングダ●トシステム」(特許)を開発、会員に供用指導している。 思いやりの心が薄らぎ、自己主張型の世相、植物にも命が、命の大切さを知って欲しいと、長田西小学校三年生に「いちご」プランター栽培を試みる。 ソイルの入れ方から植付まで、四クラスの児童で行い、六ヶ月間の水やり作業で一人十個平均を味わい「甘い」の子供らの評価は高かった。勿論無農薬で。 昨年は中庭の歌壇に自然薯を栽培、五年生が担当する、一日10cmの蔓の成長に驚き、掘り取りには一本毎に歓声が校庭に響いた。 翌日は二百人でとろろパーテー、「こんなに子供らの輝いた瞳を見たことはない」と校長先生も喜び、今年の収穫が待ち遠しい。 この土づくりは、長年の体験から作物の安定生産と消費者ニーズに適うばかりか、環境保全型であり、既にお茶の無農薬、減農薬、減肥栽培にも利用され成果を上げている。 国は「新農業基本法」に基き、「持続性の高い、農業生産方式導入促進」の法律を公布(平成十一年七月二十八日)した。 そこで私共は発起人会を開き、特定非営利活動法人「自然生の会」を組織し、認承方を静岡県知事に提出する運びとなり、土壌保全を中心にNPO活動の生声をあげるのも間近い。 柴山信夫 |